道頓堀のJAZZ
TOP RANK/JACK'S iNN
大阪最大の繁華街ミナミ。
毎日多くの人が行き交うこの街ですが、にぎやかな電飾看板と活気のある飲食店が立ち並ぶ道頓堀、バーやクラブが夜の街を彩る宗右衛門町、路地を一本入ると風情のある街並みが広がる法善寺横丁と、実はそれぞれ独自の個性を持った地域に分かれています。
大阪と言えば、「お笑い」や「たこ焼き」等のイメージが持っている人が多いかもしれませんが、実はミナミのあたりは、江戸時代に芝居小屋がたくさんつくられてそのお客さんが飲食をするお店が出来たことから発展したという歴史を持っています。
ミナミの歴史を掘り下げることで、大阪の新しい魅力が見えてくるかもしれない。
そんな狙いから、この企画では、第1回「芝居」、第2回「JAZZ」の2つの文化に焦点を当て、長年この街で人々に愛されてきたお店のお話をうかがいながら、芝居の街、JAZZの街としてのミナミを楽しみ方を考えます。
第2回のテーマは「JAZZ」。2021年11月1日から2022年4月9日まで放送のNHK連続テレビドラマ「カムカムエヴリバディ」は、昭和、平成、令和と3つ時代を生きた祖母、母、娘の描くストーリーですが、第2章の大阪編では高度経済成長期の大阪の道頓堀が舞台となっています。主人公は道頓堀のクリーニング店で働くるい。ある日ジャズと出会ったことから人生が動き出して、やがて謎のトランぺッターと恋に落ちるというお話。ドラマの中には、当時道頓堀をにぎわせていたジャズ喫茶が物語の重要な舞台として描かれています。そんな古き良き時代の思い出がたくさんつまったジャズ喫茶ですが、実は今でも気軽に立ち寄れるお店があるということで、今回は、ミナミのジャズカルチャーを体験できるお店「TOP RANK」と「JACK'S iNN」を尋ねました。
思いがけない一曲に出会える音楽好きの秘密基地
TOP RANK
気に入った店がなかったから自分でつくった
このお店を立ち上げた経緯を教えてください。
一言でいうと自分の気に入ったお店がなかったからつくたんです(笑)
昔から音楽を聞くのが好きでした。僕がジャズにのめり込んだのが、高校生から大学生になる途中、1970年代半ばだったのですが、今から40年~50年前のジャズ喫茶はお話厳禁のところが多かったんですよ。学校の教室みたいに1人か2人がけの椅子がスピーカーに向かって並んでいて、話をすると「うちはジャズを聞くお店やから、静かにしてくれ」と言われる。また、当時はフリージャズという難解なジャンルが流行っていて、「フリージャズを理解出来なければ、ジャズを語る資格ない」みたいな堅苦しい空気もありました。そこで、今までのジャズ喫茶の概念をひっくり返したらどうなるんだろうと考えたのがそもそものきっかけです。
だからうちはジャズ喫茶ですが、かける音楽は多様でジャンルにはしばられない。カウンター以外のテーブル席もありますが、もちろんお客さん同士でおしゃべりで盛り上ってもらうのも大歓迎です。そんなお店なので、お客さんにはよく「ここにおったら家におるみたいや」と言われます(笑)
ジャズ喫茶というと初心者には敷居が高いイメージがあったのですが、家のようにくつろげるお店なら安心して入れそうです。お店をはじめた当時は道頓堀は今よりもっとジャズが盛り上がっていたのでしょうか?
このへんは昔はジャズ喫茶が多かったですね。宗右衛門町におぐらというジャズを流してる喫茶があったんですが、おぐらのまわりにキャバレーがたくさんあって、そこで演奏するバンドマンが休憩時間にみんなおぐらに行くんです。当時のキャバレーにはいわゆるビッグバンドという大編成のバンドが入ってたので、ミュージシャンもたくさん街を歩いてました。
この場所は、元々ジャズベーシストの西山満さんがロック喫茶という名前でやっていたお店だったんですよ。そこから僕が譲り受けて今に至ります。
ジャンルはこだわらない音楽のおもちゃ箱をひっくり返したようなお店
お店にはジャズ以外のレコードやCDもたくさんありますが何かこだわりはあるんですか?
僕はお客さんに「マスターはどんな音楽が好きなん?」と聞かれたら、ジャンルが曖昧なところ、重なっているところにある音楽が好きだとこたえます。そもそも、音楽のジャンルがすぱっと分かれているように見えるのはレコード会社が勝手にラベルを貼っただけです。僕は、世の中にはこんな音楽があるんですよ、こんな新しいものもありますよということをお客さんに伝えていきたいんです。ジャズのお店をやっているとたまに古い音楽しか聞かないって人もいるのですが、もったいないなと思います。僕は今、70歳なので、あと聞けて最長30年とかですが、音楽は日々更新されるものなので、1曲でも新しいものを聞いていきたいと思っています。だから、今でも新譜が出たら、予算が許す限り、手あたり次第買っているので、お店にはいろいろなジャンルのレコードやCDがあります。よく、音楽のおもちゃ箱をひっくり返したような感じだと言ってます(笑)
イチオシは広島の桜尾にある醸造所 SAKURAO DISTILLERYの特製のSAKURAO GINと、ロンドンで生まれたフェーバーツリーのトニックウォーターを合わせたジントニック。マスター曰く長年の試行錯誤の末にたどり着いた至高の組み合わせだとか。お酒のこだわりにもいいものや新しいものを知って欲しいという思いが息づいている。
音楽にかける思いが伝わってきました。普段マスターはどんなところで新しい音楽を発掘してるんですか?
実は、ブック・オフが多いです。ブック・オフに行き慣れると、そこでしか見つからないCDがあるんですよ。僕は「冒険買い」言ってるんですが、タイトルやジャケットを見て、ビビッときたやつはお金の許す限り冒険買いをしてます。今はみんなネットで検索して音楽を探すことが多いですが、僕がブックオフで冒険買いした音楽をお店で流してるとよくお客さんが「マスターこれはじめて聞いたけどええな」と言ってくれるんです。お客さんにこんな楽しい音楽があったんやと新しい発見をしてもらうのが一番面白い、やりがいがあるところですね。
マスター イチオシのロックバンド ジムノぺティ。このバンドとの出会いもブック・オフでの「冒険買い」がきかっけだとか。お店には、サブスクリプションサービスのレコメンドからはたどり着けない多様な音楽との出会いであふれている。(ジムノペティ: ジャズ、スウィング、昭和歌謡、ムード歌謡等を織り交ぜたサウンドと独特な世界観が特徴のバンド)
まずは一度聞いたことのある曲のジャズアレンジから
1人ではじめて来た時のおすすめの楽しみ方を教えてください。
よく「この子素人なんやけどジャズでなんかええのんない?」と相談されることがありますが、そんな時は、過去に誰もが一回は耳にしたことがある懐メロ等のジャズアレンジのCDなどをおすすめします。これまで全く聞いたことない人にいきなり本格的なジャズを聞かせても分からんもんは分からんじゃないですか。だから、「こういう雰囲気で~」「今日はこういう気分で~」と言ってもらえたら、お客さんを見てこちらからいろいろおすすめさせていただきます。
ジャズカバーなら初心者の自分でも気軽に聞ける気がしました。
だから、お客さんを見て、ジャズに馴染みのなさそうな人かなと思ったら、ちょっとポップな音楽をかけて、「マスターそんなんより普通のジャズかけてよ」って言われたら、普通のジャズかけますし、「うわ、こんなのがありがたいわ」と言われたらそこからおすすめを考えます。僕地獄耳なんですよ(笑)だから、カウンターで作業をしていてもテーブルのお客さんの話が聞こえてきたら、その内容に合わせて音楽を変えるんです。よく「えーマスター聴こえてたん?」って驚かれるのですが、丸聞こえですよって(笑)
SHOP DATA
TOP RANK
〒542-0076 大阪府大阪市中央区難波1丁目6−18
06-6211-9985
17:00~23:30
法善寺ジャズストリートの歴史を繋ぐお店
JACK'S iNN
法善寺ジャズストリートを生んだお店
まずはじめにこちらのバーの歴史を教えてください
うちは昨年(2021年)に亡くなったオーナー(川名正博)がはじめたお店で法善寺で3店舗のバーをやっています。この路面店のJACK'S iNNと、入り口は違うのですが建物の2階がバー川名というお店になっていて、もう一つ近くにわんというお店があります。
元々宗右衛門町の近くでお店をやっていて、それからどうしても法善寺に店を出したいということで、1988年にお店を移転したんです。オーナーはミュージシャンの知り合いが多いので、よくお店に呼んでライブをやってもらったりしてました。
法善寺は毎年お祭りがあるのですが、オーナーがジャズストリートという名前で、自分たちでお金を集めてミュージシャンを呼んで演奏してもらうイベントを路上ではじめたんです。
元々店の前で始まったのが、法善寺まつりの一環として広場を使えるまでになりました。
大塚善章さん、古谷 充さん。関西で活躍されているミュージシャンが多数参加して下さっています。毎年日本手拭いを黒田征太郎さんにデザインをお願いしてつくってるのですが、好評でお祭りの楽しみの一つになっています。現在も地元の企業さんから協賛金を出していただいて30年以上ジャズストリートは続いています。
オーナーの川名さんは法善寺にジャズ文化を根付かせた人だったんですね。お店には全国からお客さんが来られるとか。
そうですね。年に1回のお祭りを毎年楽しみに来てくれる人もいます。基本的にはジャズ好きのお客さんが多いけど、ここは路面店なので、一見さんのたくさん来られますよ。僕らも歳をとって来たので、常連さんはどんどん年齢が上がっていきますね(笑)70代や80代の常連さんもおられます。オーナーはフランクな人だったので、わりと誰でも親しみやすかったと思います。かしこまってるタイプではなくてわらかしてなんぼみたいな。
道頓堀に行ったらこういうものを見れるぞって文化を大切にしたい
時代を越えてお店が愛されていることが伝わってきました…昭和の道頓堀のジャズシーンはやっぱりすごく盛り上がっていたのでしょうか。
オーナーが生前大阪の有名なお店をまとめたバーを本を書きたいと言っていたことがありました。昔はミュージシャンが演奏しているお店がたくさんあったんですよ。外国の方々も良く来ていて、普通に遊びに来た店で演奏して帰るという嘘みたいな話が結構あったんです。
今後、ミナミをこんな街にしていきたいという思いはありますか?
やっぱり、芝居なり、演奏なり、道頓堀に行ったらこういうものを見れるぞって文化を大切にしていけたらなと思います。
SHOP DATA
JACK'S iNN
〒542-0076 大阪府大阪市中央区難波1丁目1−8
06-6213-6376
月~日:17:00~24:00
Bar 川名
〒542-0076 大阪府大阪市中央区難波1丁目1−8
06-6213-5245
月~土:18:00~25:00
最後に
皆さんいかがでしたでしょうか?
歴史や文化を知ることで、普段何気なく歩いているミナミの街の景色がちょっと変わって見えるかもしれません。大阪にお立ち寄りの際は、是非、道頓堀や法善寺横丁に足をのばしてみてください。そこでは思いがけない新しい世界との出会いがあなたを待っているかもしれません。